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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1161号 判決

裁判所書記官

安島博明

本店所在地

東京都府中市武蔵台一丁目三〇番地

株式会社榊組

(右代表者代表取締役榊學)

本籍

福岡県福岡市中央区伊崎四四番地

住居

東京都府中市武蔵台一丁目三〇番地の一二

会社役員

榊學

大正一四年一〇月一七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社榊組を罰金一、八〇〇万円に、被告人榊學を懲役一〇月にそれぞれ処する。

被告人榊學に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社榊組(以下「被告会社」という。)は、東京都府中市武蔵台一丁目三〇番地に本店を置き、土木建築、大工工事の請負等を目的とする資本金三、〇〇〇万円(昭和五五年五月三〇日以前の資本金は二、〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人榊學は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人榊學は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社の取締役であった榊典子と共謀のうえ、賞与の水増計上、支払工賃(労務費)の架空計上などの方法により所得を秘匿し、

第一  昭和五三年二月一日から昭和五四年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六、六四五万五、二二四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年三月二八日、東京都府中市分梅町一丁目三一番地所在の所轄武蔵府中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、五三四万六、七七〇円でこれに対する法人税額が八七七万六、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第七八〇号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、五一九万三、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一、六四一万六、六〇〇円を免れ、

第二  昭和五四年二月一日から昭和五五年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、四三三万六一九円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年三月二八日、前記武蔵府中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、四九七万九、〇七三円でこれに対する法人税額が四四八万三、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、〇一七万二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一、五六八万六、八〇〇円を免れ、

第三  昭和五五年二月一日から昭和五六年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、四七四万九、八七六円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年三月三一日、前記武蔵府中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、五四一万一、七二九円でこれに対する法人税額が八〇五万三、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、一七六万六、〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額二、三七一万二、三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人榊學の当公判廷における供述

一  被告人榊學の検察官に対する供述調書六通

一  榊典子(七通)、岡部吉伸、友成年子(二通)、土手内啓真及び山下勲の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の支払工賃、未成工事支出金、給与・手当、受取利息、価格変動準備金、過払社会保険料、役員賞与損金不算入額及び源泉所得税に関する各調査書各一通

一  検察官作成の給与手当関係、福利厚生費関係、交際接待費関係及び雑費関係に関する各捜査報告書各一通

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  武蔵府中税務署長作成の証明書

一  東京法務局府中出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五七年押第七八〇号の1ないし3)

(法令の適用)

被告人榊學の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項、刑法六〇条に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項、刑法六〇条に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人榊學の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、八〇〇万円に処することとする。(量刑の理由)

本件は、刑務官から転じて義父の営む建築業に身を投じ、その後独立して型枠工事を主とする被告会社を設立し、三多摩地区のこの種業界で大手と評価されるまでに業績を伸張させた被告人榊學において、その業務に関し、同じく取締役であった妻の典子と共謀のうえ、三事業年度にわたり、合計五、五〇〇万円余の法人税をほ脱したという事案である。被告人榊學は、昭和四六年一二月ころから賞与の水増計上を、昭和五二年一〇月ころからはこれに加えて架空労務費の計上をも引き続き行って本件に至ったもので、なかでも水増計上に係る賞与は税金対策として行うものであることを従業員に告げてその協力を求め、これを当該受給者とされた従業員名義で簿外の定期預金にするなどしてきたもので、本件各犯行は計画的かつ周到である。また、これまで昭和三九年と同四九年の二回にわたり税務調査を受けながら、特に二回目の調査で右賞与の水増計上が発覚しなかったことから、更に本件に及んだもので、申告率は低いうえ、犯行発覚後、従業員に対し、水増計上に係る賞与が実際に従業員に支給されたものであるかの様に装うための口うら合わせをする等して証拠の隠滅工作を行っているのであり、納税意識の乏しさは顕著である。こうした事情にかんがみると、その被告人らの刑責は軽視することができない。

しかしながら、被告人榊學は、本件を反省して修正申告を行い、本税及びこれに連動する諸税を完納しているうえ、今後は正しく納税する旨供述している。また、隠匿所得が被告人榊學の個人的消費に使われた形跡はなく、ほとんどを被告会社の用途に充てるために蓄積されていること、被告人らに前科前歴なく、下請からも信頼されていることなど有利な事情も認められるので、以上諸般の事情を勘案して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和53年2月1日

至 昭和54年1月31日

株式会社 榊組

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

自 昭和54年2月1日

至 昭和55年1月31日

株式会社 榊組

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

修正損益計算書

自 昭和55年2月1日

至 昭和56年1月31日

株式会社 榊組

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(四)

税額計算書

〈省略〉

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